
「自分はまだ変われる」
新国立劇場バレエ団・ファーストアーティスト根岸祐衣さんが語る、怪我からの復帰と進化のシーズン
今シーズン、怪我からの復帰を果たし、数々の舞台で活躍したプロバレエダンサー・根岸さん。クラシックからネオクラシック、キャラクターの濃い役柄まで幅広く踊りこなし、舞台上での存在感をさらに増しています。
その裏には、踊りと身体に対する丁寧な向き合い方と、絶え間ない努力の積み重ねがありました。怪我との向き合い方、ピラティスを通じた身体の再構築、そして挑戦の舞台まで——その歩みを語っていただきました。
― 怪我の復帰と、身体の土台を見直した日々
Q:今シーズンを振り返って、どんな1年でしたか?
基礎を徹底的に見直し続けたシーズンでした。その積み重ねが舞台上でパフォーマンスとして形になったことが、とても嬉しい1年でした。
Q:シーズン序盤は怪我後の回復途上だったと聞きました。その期間、どのように乗り切ったのでしょうか?
バレエの基本動作を、担当インストラクターと一緒に1つ1つ丁寧に確認しました。ピラティスやトレーニングで身体を強化するだけでなく、バレエの動きの中でのエラーを見つけて修正しなければ、怪我の再発を防ぐことはできません。その重要性を強く感じました。
特に、バレエの特殊性を理解してくれて、身体の状態を的確に指摘してくれるインストラクターに、バレエレッスンとトレーニングの両方を見てもらえたことが大きな支えになりました。病院との連携もしてくださり、リハビリとトレーニングを並行して進められたのも心強かったです。
焦る時期もありましたが、客観的かつ理論的なアドバイスのおかげで、心身ともに支えられました。

― 表現する力を磨いた大役「カラボス」
Q:『眠れる森の美女』でカラボス役を務められました。久々の大役だったと思いますが、どうでしたか?
術後1年目はあまり踊れなかった分、他のダンサーや作品をじっくり見る時間が多く、自分に足りないことを深く考えるきっかけになりました。その中で得た気づきを、カラボスで試すことができたと思います。実際にその役を踊っていた先生にリハーサルを見ていただけたのも貴重な経験でした。
カラボスのような振り切ったキャラクターは、これまでやりきれず悔しかったこともあったので、今回は「絶対にやり切る」と決めて臨みました。
Q:キャラクター性の強い役を任されることが多い印象ですが、当時まだ身体の不安はありましたか?
大きな不安がありました。正直、踊り切れたら奇跡だと思っていたくらいです。実際に負担がかかりそうな動きは事前に担当インストラクターと相談し、細かく対策を立てて臨みました。

― ネオクラシックでの挑戦と、海外からの評価
Q:その後はフォーサイス作品にも出演されました。クラシックとは異なる身体の使い方だったと思いますが、いかがでしたか?
クラシックの枠を超えた身体の使い方が求められ、完全にコントロールされていないと成立しない動きが多く、とても難しかったです。
踊りによって身体は大きく変化するので、担当インストラクターがその変化を理解してくれていることに大きな安心感がありました。当時はリハーサルが毎日5時間で、身体を整えるセッションや特定の動きへのアプローチをしてもらっていました。メンタル面のサポートも本当に大きかったです。
Q:今回、カバーから本キャストに抜擢されたのは、リピティター(RÉPÉTITEU)*の評価もあったのでしょうか?
さまざまな事情が重なってのキャスティングだったと聞いていますが、「この作品を届けるために、ベストなメンバーでつくろう」とする中に自分が入れていただけたのが嬉しかったです。
*リピティター(RÉPÉTITEU):振付家や演出家の変わりに海外より招待するリハーサル指導者
Q:海外のリピティターからの評価については、どう感じていますか?
日本人の中にいると、私の踊りはエネルギッシュで強く見えるのかもしれません。ネオクラシックでは、そういった肉体的な強さが求められることが多く、私の踊りがその感覚に近かったのかもしれません。
Q:海外振付家のリハーサルは、日本との違いを感じましたか?
はい、とても感じました。西洋のダンサーを基準にしているからか、「基礎が弱い」「身体が使えていない」といった点に非常に厳しく、妥協が一切ありません。
でも、そのぶん作品の意図や動きの意味を丁寧に説明してくださるので、ダンサーとして作品への敬意を持ちやすく、理想のイメージを描きやすい指導でした。

― 意識的な身体づくりと、表現の深化
Q:今シーズンは体型にも変化がありました。それは意識的なものだったのでしょうか?
はい、自分でも変わりたいという思いが芽生えて、栄養士に相談し、専門的なアドバイスを受けました。インストラクターからも、体を絞ることで動きが良くなる可能性を提案され、実際に誕生日にアプリ連動の体重計をプレゼントされか(笑)、体重やラインの変化を客観的に見ながら調整しました。
その成果が出て、動きが軽くなり、リハーサルでの身体の負担も減って怪我のリスクも下がりました。とても充実した時間でした。
Q:『ジゼル』のミルタは2回目の挑戦でしたが、初演時と比べて違いはありましたか?
1回目はとにかく技術をこなすことで精一杯でした。でも今回は「ただ跳ぶだけでは足りない」と気づいてから、技術は“伝えるため”の手段だと意識するようになりました。
カラボスで思いきり演じきったことが、その変化の大きなきっかけになりましたし、怪我後のリハビリで力みが減ったことで、自然に踊れるようになった感覚もあります。自分自身の変化を実感できたことが、大きな自信につながりました。

― ピラティスが支える踊りの現在地
Q:―Sky Pilates Tokyoでは、毎週ピラティスセッションを続けているそうですね。内容はどのように決めていますか?
その時々の踊りの課題や、基礎でつまずいているところを主語にして、インストラクターと相談しながら内容を組んでいます。バレエは1つ課題をクリアしても、すぐに次の壁が現れるので、相談は尽きません(笑)。
Q:ピラティスの効果は、踊りにどのように現れていますか?
筋力強化が必要なときには追い込み、感覚を育てたいときには低負荷で丁寧に行うなど、目的に応じてセッション内容が変わります。身体を壊さずにパフォーマンスを高めるために、不要な負荷を避ける視点はとても大切でした。
Skyでのサポートのおかげで、大きな怪我もなく過ごせましたし、「昨日より今日の方が動ける」と感じられることが、すごく励みになります。
― 今夏、オーロラ姫に挑戦
Q:8月にはSky主催の舞台で『眠れる森の美女』一回のガラ公演で1,2幕のヴァリエーション、3幕はグランパドドゥを踊ると伺いました。なぜこの演目を選ばれたのでしょうか?
この1年、「ドゥミプリエ」「足指の使い方」など基本的なことを徹底的に見直してきて、身体の使い方次第でラインや筋肉のつき方が変わると実感しました。それを試してみたくて、クラシックの王道に挑戦することにしました。
姫のキャラクター、純粋さをどう表現するか。テクニックも顔の角度も、全て試行錯誤しながら取り組んでいます。
Q:今回は誰かにコーチングを?
はい。飯野有夏先生、小野絢子さん(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、河南達郎先生(※五十音順)にリハーサルを見ていただきました。アドバイスをいただくことで理解が深まり、踊りが磨かれることを実感しています。

― 未来に向けて
Q:来シーズンの目標を教えてください。
舞台で自分の役割を全うし続けること。毎日レベルアップすること。そして、自分自身を大切にすることです。
Q:最後に、根岸さんにとってSky Pilates Tokyoとは?
セッションの途中で「早く踊りに行きたい!」と思わせてくれる場所です。自分の踊りとまっすぐ向き合える、前向きになれる時間をくれる大切な場所です。
根岸祐衣さんが出演する公演情報
“Defi” Dance Festival
根岸さんは眠れる森の美女1,2幕のヴァリエーション、3幕のグランパドドゥを同じく新国立劇場バレエの森本晃介さんと踊られます。
【日時】
2025年8月6日(水)
16:45 開場
17:15 開演
20:20 終演
全席自由席
【場所】
きゅりあん大ホール 8階
東京都品川区東大井5-18-1
※大井町駅から徒歩2分
大人から子供までの趣味の方、プロを目指す方、プロの方皆さんがバレエを楽しむ為に出演されます。
一般の方の入場料(プログラム込み)は500円とさせていただきます。当日会場にて販売も致します(定員になり次第終了)。
Sky Pialets Tokyoでも7/20以降販売致しますので、いましばらくお待ちください。