【Special Interview】新国立劇場バレエ団 根岸祐衣さん – バレエとピラティス

全日本空輸(ANA)の客室常務員から、新国立劇場バレエ団のダンサーへ転身した根岸祐衣(ねぎしゆい)さん。Sky Pilates Tokyoでも定期的にセッションを受けている祐衣さんにバレエとそのコンディショニングとしてのピラティスについて、お話を伺ってきました。

― 祐衣さん、今日はよろしくお願いします。

根岸祐衣(以下、根岸):よろしくお願いします!

― さっそくですが、プロのダンサーになることを一度諦め、そこからまたプロのダンサーを目指そうと思ったときに、どんな身体作りやトレーニングを行いましたか?

根岸:バレエが要求しているポジションに体を持っていくための体が必要だと思ったので、バレエのクラスで基礎的なことをやり直した他、マシンピラティス、マットピラティスを取り入れました。

― プロのダンサーになっても、ピラティスは継続されていますが、やはりコンディショニングとして欠かせないものですか?

根岸:絶対に欠かせないです!

バレエのレッスンは左右対称に練習できますが、作品によって必要なテクニックが異なり、体がものすごく歪んだりかたよることもあります。そのまま放置したら怪我に直結します。また、左右差はもともと誰にでもあるので、弱い部分を強化し、体のアライメントをなるべく正しい位置にしようと心がける事でより踊りやすい体になります。何より自分の肉体的な弱点を見直す事で、今までできなかった動きができるようになったり、踊りがより大きくなったりします。

そして、ピラティスで弱点や自分の癖と向き合う事が、自分の体を理解する事に繋がり、それが信頼する事に繋がり、その結果舞台で思いっきり踊れます。

また、マッサージや整体はほぐして整えて終わり、ですが、ピラティスは弱いところ、偏っているところのアライメントを整えて、うまく機能していない筋肉を目を覚ませる感覚です。そうすると、正しい位置を体が思い出してくれて、辛い張りが取れたりもします。怪我(骨折、肉離れ、挫傷)をしていなければ、受動的な治療を受ける以上の持続性がある気がします。

― 趣味でバレエを続けている、大人からバレエを始めた、そんな方々が当スタジオにもたくさんいらっしゃいます。そんな方々からよく聞かれる質問を祐衣さんにも聞いてもよいですか?

根岸:はい(笑

― 「トレーニングする筋肉がつきすぎるのが心配なのですが、ピラティスは大丈夫ですか?」という質問です。確かに、トレーニングと聞くと、マッチョなイメージがありますが、実際に続けてみてどうですか?

根岸:私はすぐに筋肉がつくタイプです。丸く太くついてしまうので、腹筋などはすぐに割れて見えますが、特に下半身のラインは太くなりがちです。

私の場合は、ピラティスをせず、レッスンばかりしていると、元々強い足のアウターの筋肉ばかりで踊ってしまうため、すぐに体や動きの印象が太くなりますし、動きも重くなります。

そうならないためにも、ピラティスで自分が自動的には使えない筋肉たちを刺激することで、目覚めてもらい、太くて大きくなる筋肉たちを少しでも休ませながら動かせるようにしてあげられることをいつでも目指しています。

ピラティスは、インナーを鍛えるのにとても効果的です。大きいアウターの筋肉をつける目的でもおそらくピラティスを活用することはできますが、私の目標は、バレエを踊りやすい体をピラティスも活用しながら作っていく事。

なので、その目標に向かってメニューを組んでもらいます。ウェイトを重くしてキツければいいわけじゃない。バレエで使いたい筋肉を体がどうやって使うかを覚えさせるための時間です。

どう言う目的でピラティスを行い、どうなりたいか、を明確に持ってインストラクターに伝えれば、一緒に考えてくれると思います。

余談ですが、バレエ団には私と正反対の、筋肉がどうしてもつかない体質のダンサーさんもいて、ウエイトトレーニングなど、アウターのビルドアップを目指してトレーニングしている方もいます。本当に人それぞれです。

― 「ターンアウトをいつも注意されます。ピラティスでターンアウトが上達しますか?」 ターンアウトは永遠のかだいですよね。プロのダンサー、そしてバレエ講師もなさっている立場から、ピラティスでどのような効果があると感じられますか? 

根岸:ピラティスを利用して、ターンアウトするための条件を整えるのは、とても効率的だと感じます。ピラティスでターンアウト習得の近道をしている感じです。ターンアウト以外も同じで、プリエ、タンジュ、ポールドブラ、グランバットマン、大きいジャンプの着地方法やジャンプ時の体重移動の方法等、本当に全てです(笑)

ピラティスで股関節からの正しいターンアウトのために必要な筋肉を強化する事、邪魔している癖を取り払う事もできます。

そして、寝ている体位でそれができるか、立位でできるか、動きながらでできるか…等、エクササイズの難易度を変えたり、負荷を変えてできるかを試していって、感覚や筋肉の使い方、使う方向を体に覚えさせていきます。

ピラティスで出来たことと、そこで分かった感覚をレッスンで踊った時に体ができるか、はまた大きな壁があるので、ピラティスだけでターンアウトを習得できるかと言ったら難しいけれど、かなりの大きなヒントというか、近道になることは間違いありません。

― 「引き上げが難しいです。腹筋が足りないからですか?」引き上げもバレエ特有の悩みですよね。

根岸:これは私にとっても永遠の課題ですが、引き上げができている、とはどう言うことなのか考えてみると…

例えば、引き上げができていれば、ターンアウトやそれぞれのポジションに体を持っていくこと、飛んだり回ったり足を上げたりバランスなどバレエが求める動き問題なくできるでしょう。そして、特有の伸びやかさ、柔軟性、軽く見える、長く見えるなどバレエが求める動きの質がよいと思います。また、思いのままに体を動かして音や感情が表現できる踊りを踊れる。

これらをクリアしているから、有名な一流バレエダンサーたちはきっと、『引き上げ』が出来ているんではないかと思います。

先生に、引き上げて、引き上げが足りない、と言われるのは、バレエが求める動きができていないから言われるんだと私は思っています。

では、引き上げる、とはというと・・・

私がバレエクラスの前にマシンピラティスを20分くらいしてからバレエクラスを受けると、体がとても軽くて、背骨も伸びている気がして、やらない日よりも自由に動けるのです。

体が自由に動ける感覚、背骨一つ一つが自由になる感覚、腰が高い感覚、股関節がフリーな感じ、床が押せる感覚、体がまとまっている感覚、四肢が自由に伸びていけるなど、こういう、感覚を持てる時、もしかすると体は引き上がっている、と言えるのではないかと思うのです。

これは、体全体の動きや印象の話であり、腹筋群だとか、そういう特定部位の話ではないと最近私は思います。

腹筋は使えてないと引き上がらないのは事実だと思います。でも、腹筋だけではなく、上腕三頭筋や前鋸筋、腹斜筋の働きのおかげで背骨の上の方はスッと伸びられるし、肋骨が正しい位置にいるまま呼吸ができる。腕が自由に動けて大きなポールドブラにつながる。

足を色々な方向に動かすのに負けない腹横筋たちの働き、骨盤を巻き込まずに足を大きく動かしたいですから、そのために、内腿たちやハムストリングが頑張ってくれるんだと思います。そして、外旋六筋の働きのおかげでターンアウトができる!

言い出したらキリがありませんが、とりあえず、身体中の筋肉たちを総動員させて、伸びやかで軽やかな動き、『引き上がった』動きができると思うのです。

ピラティスは、特定の筋肉を強くする目的でも高い効果を発揮するとおもますが、同時に体全体の動きの方向性を筋肉に教えると言う目的でもとても効率よく学べるツールだと思います。

呼吸と共に、正しいアライメントに一つ一つはめていった結果、体の中のたくさんの筋肉たちがどの方向にどうやって使われれば、自分の体の最大の長さや強さになるのか…。これをピラティスを通して自分の頭と体が理解できれば、踊りにも生かすことができ、それが、引き上げるということなのではと思います。

それを学ぶのはピラティスが一番手っ取り早いと私は日々感じています。

― 実際にダンサーとして活躍されている祐衣さんからのアドバイスはとても参考になります!

最後に、もうひとつだけ

― ピラティスの好きなところ、お気に入りのエクササイズを教えてください!

根岸:ピラティスには(多分)無限にエクササイズがある気がしています。パラレルでやっているエクササイズをターンアウトしてやってみて、とか、見た目はあり得ないエクササイズになることもあるのですが(笑)そういう点で、毎回新鮮です。

それから、体は日々、良くも悪くも変化していくので同じエクササイズでも、感覚が全く違ったり、辛い箇所が違うのも面白い。

あとは、やっている最中は辛くても、エクササイズが終わった後、体の変化が別人のようにかわり、それも病みつきになる点です。

好きなエクササイズは、固有の筋肉だけを強化するものより、体全体がきちんと連動していないと出来ないエクササイズが、好きです。個人的には、チェアが好きです。

― 祐衣さん、今日はお忙しいところ、ありがとうございました!


根岸祐衣(ねぎしゆい)
4歳より大塚礼子、郷路泰子の元でバレエを学ぶ。2012年 ローザンヌ国際バレエコンクール出場。同年 ハンガリー国立バレエ学校留学。2014年同校卒業。その後、青山学院女子短期大学を経て日系航空会社に就職。2021年、新国立劇場バレエ団のオーディションを受け合格。2021/22シーズンより同バレエ団アーティストとして在籍中。デビューイヤーで白鳥の湖でポーランドの女王に抜擢。2022/23シーズン ジゼルにてミルタに抜擢される。